新潮流アフリカ炭素クレジット市場、スタートアップが世界にもたらす可能性 #2
アフリカスタートアップを支援するVC、UNCOVERED FUNDがアフリカの最前線で起こるイノベーションのリアルをお届けします。
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皆様、こんにちは。前回はアフリカで初開催となったAfrica Climate Summitについてご案内しましたが、今回はアフリカのカーボンクレジットに焦点をあて、市場の動きと可能性について深掘りした内容をお届けします。
目次
1. アフリカのカーボンクレジット市場の現状と将来性
2. 世界とアフリカの炭素取引の実例
3. アフリカスタートアップのクレジット取引実例
1. アフリカのカーボンクレジット市場の現状と将来性
カーボンニュートラルについては様々な国が目標を掲げていますが、日本は2020年10月に政府が「2050年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにする」という目標を発表し、その後2030年を一つの区切りとし2013年比で温室効果ガス排出を46%削減するという中間の目標が設定されています。
日本企業及び政府がカーボンニュートラルを達成することは義務となっており、企業の脱炭素の後押し策として、東京証券取引所は先月10月11日にカーボン・クレジット市場を正式に開設しました。
一方アフリカについてですが、昨年開催されたCOP27に合わせて、アフリカ・カーボンマーケット・イニシアチブ(ACMI)を発足しています。同団体は、アフリカ諸国の民間企業やNGOがカーボンクレジットを発行するボランタリーカーボン市場での取引増加に取り組むことで、気候変動対策につながるとの考えのもと、アフリカ諸国において気候変動対策に向けた資金調達の1つの方法となるボランタリーカーボン市場の拡大に取組んでいます。また、2030年までに年間で二酸化炭素3億トン分のクレジット発行と60億ドルの収入、2050年までに年間で二酸化炭素15億トン分のクレジット発行と1,200億ドルの収入を目指しており、さらに、同業界において、2030年までに3,000万人、2050年までに1億人以上の雇用創出の目標を掲げています。ACMIの発表では、2021年のアフリカにおけるクレジット発行は38.9百万トン、2,230万ドルの収入であるため、掲げた目標達成に向けて、ギアを上げた取組が繰り広げられていくことが想像できます。
出典:Africa Carbon Markets Initiative Overciew 2023
アフリカが世界中からカーボンクレジット発行に期待が寄せられている理由として、再生可能エネルギーに適した広大な土地を多く保有していることや、省エネや物流の輸送効率の改善など、炭素排出量を削減する余地が大いにあることが挙げられます。
アフリカ中央部のコンゴ盆地に位置する国には広大な熱帯雨林があり、森林保護などによる二酸化炭素の排出削減などの取り組みが進められています。2022年7月時点ではガボンが世界最大規模のカーボンクレジット発行をしています。このようにカーボンクレジットを多く発行できるポテンシャルを持つアフリカであるからこそ、世界中から注目が集まっています。
2. 世界とアフリカの炭素取引の実例
先月開催されたAfrica Climate Summitでも、2030年までにアフリカの炭素クレジット発行を19倍に拡大する目標の達成に向け、参加国が総額数億ドルの拠出を表明しましたが、世界の大手企業は既にアフリカのカーボンクレジット市場に注目しています。
(1)デルタ航空の事例
デルタ航空は収益で世界第2位の航空会社であり、2021年には全社で1,200万トンのカーボンクレジットを購入しています。そのうち、約116万トンをアフリカから購入しており、アフリカ市場からクレジットを購入した事業者の中では、一番多くのクレジットを購入しています。デルタ航空全社での購入プロジェクトの内訳を見ると、44%がREDD++の森林保全や、土地の有効活用で、56%はDACやCCSなどの先進技術への投資となっています。
(2)NETFLIXの事例
NETFLIXでは、ケニアやブラジル、メキシコといった国で科学者として働いた経験のあるエマ・スチュワート博士をサステナビリティ責任者とし、Science-Based Targetsが提唱するイニシアティブ(SBTi)の基準に沿った削減戦略を立てています。また、自社活動における削減に加え、森林保護などの既存吸収源の保全、自然生態系の再生への投資拡大をアクションプランとしています。2021年に購入したクレジットは約150万トンありましたが、そのうち44%が南米、43%がアフリカのプロジェクトからの購入となっています。
(3)GUCCIの事例
出展:Gucci Equilibriumインパクトレポートより
GUCCIは2018 年から、カーボンニュートラルへの取り組みとしてさまざまなパートナーと協力し、自然保護や生物多様性の回復に焦点を当てたプロジェクトに投資しています。2021年からは戦略を進化させ、環境再生型農業を普及し、製品に再生可能な原材料を供給することを目指しています。アフリカのカーボンクレジット市場からは2021年に90万トンのクレジットを購入しました。
■グローバル企業が注目する理由
グローバル企業が南米やアフリカのカーボンクレジットへ投資をしている理由は、大きく2つのことが考えられます。
1つ目は質の高いプロジェクトに投資をしたいということです。森林や草地、マングローブ、健全な土壌を回復させるプロジェクトは、二酸化炭素を吸収するだけでなく、私たちの生活にさまざまな恩恵をもたらします。自然を守ることは、環境に貢献するだけでなく、生物多様性を保護し、弱い立場にあるコミュニティの雇用創出や教育の機会提供などにもつながります。そういった背景を含めて、社会的意義の大きな事業に対する投資が加速すると考えられます。
2つ目は、消費者のサステナビリティ意識の向上です。NETFLIXのアンケートでは、サステナビリティのテーマに関連する作品を1つ以上視聴したと回答する消費者が、全世界で1億6,500万世帯いることが分かりました。また、GUCCIでも再生型農業で生産された原材料を調達していく方針を示しており、既存調達先の農家が再生型農業に移行するのを支援しています。消費者の意識が高まることで、ポテンシャルの高いアフリカ市場への関心も高まっていくと予想されます。
3. アフリカスタートアップのクレジット取引実例
世界中からカーボンニュートラル及びカーボンクレジットの注目が集まる中、カーボンクレジットの取引に特化した事業を運営するスタートアップや、事業の副産物として発生するカーボンクレジットを販売し、その売上を事業の拡大に運用するスタートアップが出始めています。以下に、アフリカスタートアップの実例を紹介します。
・創業年:2021年、累計調達額:$16.6M
Abatableは炭素インテリジェンスおよび調達プラットフォームを開発するスタートアップです。同社のプラットフォームでは、多様なプロジェクトによるカーボンクレジットが提供されています。企業のバイヤー、プロジェクト開発者、仲介業者がボランタリーカーボン市場に簡単にアクセスでき、信頼性の高いカーボンクレジットを取引できるようにサポートしています。
・創業年:2013年、累計調達額:$37.3M
SunCultureは小規模農家向けに太陽光発電を組み合わせた灌漑システムを提供しており、現在約40,000の小規模農家を顧客として持っています。アフリカでは小規模農家が多く、灌漑設備にアクセスできないなど、他国と比べて生産性の低さが課題となっています。SunCultureのソーラー灌漑システムを利用することで、年間の作付け回数を増やし収益を上げたり、ディーゼル発電機を使ってポンプを動かしていたランニングコストを削減することができるようになっています。
また、ディーゼル発電機をSunCultureのシステムに置き換えることで、相殺したCO2をカーボンクレジットとしてヨーロッパやアメリカの企業へ販売しています。2023年には既に50,000トンのカーボンクレジットを販売する見込みとなっており、クレジットによる収益はサービスコスト低減に活用されます。
・創業年:2013年、累計調達額:N/A
KOKO Networks(以下、KOKO)はバイオエタノール調理用燃料事業を運営しており、森林伐採による木炭の代替品として、ケニアの 8 都市の約100万世帯に低コストのバイオエタノール調理用燃料を供給しています。顧客は都市部に設置されたKOKO Fuel ATM からKOKO Fuelを購入することができます。KOKO社は、研究開発、技術、製造、事業運営、顧客サービスの分野で2,000人のスタッフを直接雇用しており、彼らの事業がバイオエタノールのサプライチェーンに関わるさらに15,000 のケニア人家族の収入を支えています。
アフリカでは調理に使われる燃料として木炭が使われていることが多く、木炭1トンを作るために原料の木材は10トン必要になると言われています。KOKOは糖蜜から生成されるバイオエタノールを調理用燃料として提供することで、木炭の使用を削減しています。また、削減分をカーボンクレジットとして販売し、その収益でより手ごろな価格でサービスを提供できるようにしています。
上記で紹介したように、カーボンクレジット市場におけるスタートアップの傾向としては、Abatableのようなカーボンクレジット取引のプラットフォーム事業を運営し、カーボンクレジットを事業の中心に据えるスタートアップだけでなく、SunCultureのように、事業の中で創出されるカーボンクレジットの売却益を活用して事業の拡大を図る企業も増えてきており、今後もカーボンクレジットの創出をビジネスモデルに組込む動きはトレンドになってくると思われます。
次回はアフリカのカーボンクレジット市場の現状と課題、日本企業の取り組みについてご紹介していきたいと思います!
【お知らせ】
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UNCOVERED FUNDについて
UNCOVERED FUNDはアフリカ大陸はじめ新興国の産業創りをリードするベンチャーキャピタルです。2050年に向けて新興国の人口増加と経済成長はここから急加速し、世界経済の中で重要な役割を担っていくことは間違いありません。特にその中でもラストフロンティアと呼ばれるアフリカ大陸は、2050年には世界人口の25%を占める25億人の巨大市場になります。その成長を牽引する最先端のデジタル技術を活用し、既存の枠組みに捉われることなく産業・社会基盤を一から構築していく新興国には、 日本が学ぶべきイノベーションの発想が多く存在します。UNCOVERED FUNDは、まだ十分な起業家支援が行き届いていない『アンカバード(un covered)』な世界で 未開の才能を発掘し、事業を作り、雇用を生み出し、世界100億人が共存する未来へ大きな価値を共創します。
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