UNCOVERED FUND最新ニュース
皆様、こんにちは。
前回はアフリカのカーボンクレジットに焦点をあて、市場の動きと可能性についてご案内しましたが、今回はアフリカのカーボンクレジット市場の現状と課題、日本企業の取り組みについて深掘りした内容をお届けします。
目次
日本の排出量削減目標と炭素税の導入
アフリカのカーボンクレジット市場における日本企業の取組み
現状のカーボンクレジット取引手法と制度
課題と有益なカーボンクレジットを取得するためのポイント
イベント開催のご案内
12/6(水)最新版アフリカスタートアップトレンド2023-
1. 日本の排出量削減目標と炭素税の導入
日本政府は、温室効果ガスの排出量削減目標について2030年までに2013年比で46%の削減、2050年までに排出量を実質ゼロにすることを宣言しています。つまり日本は2013年に年間約14億8000万トンの温室効果ガスを排出しているので、2030年時点の目標値を満たす許容排出量は年間約7億9920万トンということになります。しかし、直近の環境省の報告によると、2021年度の日本の排出量は11億2200万トンであるため、2030年目標許容量を約3億2280万トン超えてしまっている状況です。
更なる削減が求められる状況であることを踏まえると、今後政府が目標を達成させるために企業に対して排出量削減への取組強化をこれまで以上に求めてくる時代がくるのではないでしょうか。既に経済産業省は2028年には企業にCO2賦課金税を導入する方針を出しています。また炭素税においても、2022年4月時点で日本はCO2排出1トンあたり2ドルの課税ですが、スイスではCO2排出1トン当たり130ドル(約65倍)、イギリスは24ドル(約12倍)の課税がされており、世界基準で考えれば今後日本の炭素税額は引き上げられていくと想定されます。日本企業にとって大きな負担となっていくことは間違いありません。
そこで温室効果ガスの排出量削減目標を達成するための手段の1つとして、温室効果ガスを相殺(オフセット)できるカーボンクレジットが注目されているわけですが、実は日本国内で生成されるカーボンクレジットとして認定されているJークレジットは、2022年3月時点の累計量でも約840トンしかありません。令和3年度10月に閣議決定された地球温暖化対策計画においても、2030年における認証目標量は1,500万トンとされており、仮に認証目標量を達成してもJークレジットのみの相殺で2030年目標値を達成させるには認定目標量の約21倍のJ-クレジット発行が必要になります。そのため現状のままではJークレジットのみでの目標達成は難しく、企業間でカーボンクレジットの取引が出来るボランタリーカーボンクレジット取引の需要が高まることが想定されます。
こうした背景から、企業としてもカーボンクレジットの供給先を確保する必要性が出てきており、その中でクレジット組成に適したアフリカや南米等の地域から購入できるパイプライン構築の動きが世界で注目されています。
2. アフリカのカーボンクレジット市場における日本企業の取組み
日本企業の動きとしては、みずほ銀行とKOKOがカーボンクレジット分野に関する戦略的パートナーシップを構築しました。この連携を通じて、みずほ銀行はカーボンクレジットの取得機会と、KOKOとの協業による環境貢献型の新規ビジネス機会の提供を目指しています。
伊藤忠商事もKOKOへファイナンス等の脱炭素事業拡大の支援を提供することで、ファイナンスにより創出されたカーボンクレジットを長期にわたり調達し、KOKOと共同でマーケティング、及び、販売活動を実施する長期オフテイク契約を締結しています。
今後、KOKO、みずほ銀行、伊藤忠商事の3社は、カーボンクレジット市場の発展に向けた3社間での連携も視野に入れた検討が進められていく予定です。両社取組のように、今後もアフリカのカーボンクレジット市場に関与する日本企業が一層増加していくことが予想されます。
3. 現状のカーボンクレジット取引手法と制度
現状のカーボンクレジット取引の実施主体は大きく3つあり、それぞれ制度が分かれています。1つ目は、国連機関が実施主体となり進めているクリーン開発メカニズム(CDM)やパリ協定に基づくクリーン開発メカニズム。
2つ目は、各国の政府や地域が実施主体となり進めている制度があります。日本の場合、J-クレジット制度やJCMと呼ばれる二国間クレジット制度がこれにあたります。JCMの制度では、パートナー国で脱炭素技術や製品・サービスを普及させることで、パートナー国で温室効果ガス排出削減・吸収や持続可能な発展に貢献し、相当するクレジットを日本が獲得する仕組みです。アフリカでは、エチオピア・ケニア・セネガル・チュニジアの4か国とJCMの制度を構築しています。(2023年11月現在)
3つ目はボランタリークレジットの制度があります。ボランタリークレジットはカーボンクレジットの中でも、NGO(非政府組織)や企業などの民間セクターが主導し運営している制度のものを指します。VCSやGold Standardなどの民間組織によって基準が策定され、制度運営されています。
・日本企業のカーボンクレジット活用
日本国内では、エネルギー使用量やCO2排出量の大きい事業者は、地球温暖化対策推進法や省エネ法によって温室効果ガス(GHG)の算定・報告や省エネルギーへの転換計画の策定などが要求されています。J-クレジットやJCMといった政府が実施主体となっているカーボンクレジットは上記算定の中でオフセットとして活用することができるようになっています。一方で、民間が運営し発行しているボランタリークレジットに関しては、企業の自主的な取り組みに留まっており、カーボンオフセット商品の開発など、企業価値向上の取り組みとして活用されています。今後制度設計が進む中で、J-クレジットやJCMのほかに、公的に認証されるボランタリークレジットが増えていくと、スタートアップが生成するクレジットの需要も大きくなることが期待されます。
4. 課題と有益なカーボンクレジットを取得するためのポイント】
アフリカのカーボンクレジット市場は急速に成長していますが、いくつかの問題が浮上しています。
例えば、プロジェクトの品質について懸念が表明されており、一部のバイヤーを躊躇させています。また、透明性の欠如、クレジット供給の限界、プロジェクト基準などについても批判が寄せられています。事例として、デルタ航空が2020年以降、「世界初のカーボンニュートラル(温暖化ガス排出量実質ゼロ)の航空会社」と宣伝してきたのは誇大広告であるとして訴訟を起こされた事例があります。デルタ航空が、主に効果が不十分なカーボンクレジットの購入によるカーボンオフセットを行っており、航空事業での排出削減は不十分であるため、カーボンニュートラルを掲げた宣伝は誇大広告であるという理由によるものです。
デルタ航空が購入したとされるような、実際の森林プロジェクトによるCO2吸収量や排出削減量よりもはるかに大きなクレジットが創出されているケースのカーボンクレジットは、「ジャンクカーボンクレジット」とも言われています。環境に配慮した会社とアピールしながら、効果の薄いプロジェクトに投資をすることで、見せかけの環境配慮「グリーンウォッシュ」であると批判を受けたり訴訟を起こされるケースもあり、昨今ではEUで規制の動きも進んでいます。デルタ航空の場合は、自主的にカーボンクレジットの購入先を情報開示していたことが仇となり、低品質なカーボンクレジットだとして批判を受けました。低品質なクレジットの購入が発覚すると会社の信用に関わるため、危ない橋を渡らないためにも匿名でカーボンクレジットを使うケースも増加しています。積極的な情報開示をしたことが裏目に出たデルタ航空でありますが、その背景には環境への貢献を数値化する難しさもあります。また、近年はジャンクカーボンが話題になり、世界、特に国連を初めとした中立的な機関の人たちは、 質の高いカーボンクレジットに意識して投資をするようになっています。
アフリカでも質の高いカーボンクレジット取引を事業の強みに据える、Abatable(前回記事案内)や、CarbonClearが出始めています。CarbonClearは2018年にデンマークで創設されたスタートアップで、カーボンクレジット売買のプラットフォームを運営しています。CarbonClearの強みは、CO2プロジェクトにおける明確で透明性の高いデータポイントを活用し、世界的にアクセス可能なプラットフォームを構築していることで、ボランタリーカーボンマーケット向けに迅速で信頼性が高く、コスト効率の高い検証済み炭素クレジット生成を可能にしています。まさに、グリーンウォッシュなどのリスクのあるクレジット購入を避けたい事業会社のニーズを捉えた事業です。
CarbonClearのボードメンバーであるReto氏は、質の高いカーボンクレジット購入先のプロジェクトを選ぶ際に意識すべき点を次のように述べています。
「カーボンクレジットのプロジェクトを選ぶ際には、データドリブンな運営がされているプロジェクトを選ぶことが大切だと考えています。つまり、IoTデバイスやセンサー、衛星データなどからリアルタイムにデータを取得でき、効果を検証できるプロジェクトであるかという事です。例えばクリーンクックのプロジェクトの場合、電気コンロであればどれだけ使用されたかを正確に知ることが出来ます。またこれらのプロジェクトのデータや進捗を、プロバイダー・バイヤーなどのあらゆるステークホルダーが、タイムリーかつ簡易に把握できる事も大切であり、これらのサービスを提供しているプラットフォーマーからカーボンクレジットを購入することが、質の担保に繋がると思います。」(CarbonClear ボードメンバー Reto氏)
カーボンクレジットの質以外の問題として、カーボンクレジットを販売で得られる利益が誰にいくのか、またその努力が実際に全球的な排出量を減らすために役立つのかは明確でない点も今後の課題です。
また取引のルール化も早期に確立することが重要であり、ジンバブエのケースでは、政府とプロジェクト開発者の間でクレジット収益の分配率が決まっていなかったためトラブルとなり、現在事業が中断されています。
これらの問題を解決するためには、市場規制の強化や透明性の確保などが必要とされており、炭素削減量の認証や管理を行う第三者認証機関の信頼性も問われると考えられます。実際にNETFLIXでは、出資するカーボンクレジットのプロジェクトを選ぶ際には、外部の専門家を招き自社でデューデリジェンスを行いながら慎重に購入先を決めています。
また、ボランタリークレジットのような第三者機関を通した相対の取引だけでなく、ケニアはナイロビ証券取引所でのカーボンクレジット市場の設立を目指しています。
今後、世界的な炭素税の導入に対応できない企業は急速に競争力を下げることになるでしょう。カーボンニュートラル実現という世界の新たなルールを、いち早く強みに転換できる企業が次世代をリードすることは間違ありません。
日本としてもカーボンニュートラルの達成は必須であり、日本企業が世界の共通目標を達成するためには、自社で排出量を減らす努力に加えて、炭素クレジット取引を通じて自社のオフセットを達成する動きが不可欠です。世界の競争が急速に進む中で、日本としてどのようにカーボンクレジット取引先を確保するかが重要課題になるでしょう。
世界の持続可能な環境を支える重要な役割を果たすことが期待され、増々加熱するアフリカのカーボンクレジット市場と新たなスタートアップの動きに引き続き注目し、今後も情報をお届けしていきたいと思います。
5. 【ご案内】12/6(水)イベントを開催します!
最新版アフリカスタートアップトレンド2023
【経済成長と脱炭素】アフリカで起こるイノベーションの今 -
12月6日に東急不動産様との共同イベントを開催します!!
複数回に渡りご案内させていただいたカーボンクレジット市場の解説もします。
アフリカで事業の立ち上げやスタートアップとの共創経験のある事業会社様、スタートアップの創業者によるディスカッションを通して、アフリカスタートアップの最新トレンドや、現地で起こる変化やイノベーションの最新事例、日本企業のオープンイノベーションのリアルをお伝えします。
アフリカ発ドローン物流を実証したZiplineの日本展開をリードしている豊田通商の石川さん、ガーナでサーキュラーエコノミーの実現を目指す清水建設の岸本さん、ケニアでバイクのアセットファイナンス事業を展開するスカイライトの小川さんもゲストにお迎えしてアフリカでの事業創造のリアルをお話しいただきます。
アフリカで起こるイノベーションに興味がある方、企業のオープンイノベーション、海外営業推進、事業立ち上げ、ESGやサステナビリティのご担当者の方は是非この機会にお申し込みください!⇒お申込はこちら
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UNCOVERED FUNDについて
UNCOVERED FUNDはアフリカ大陸はじめ新興国の産業創りをリードするベンチャーキャピタルです。2050年に向けて新興国の人口増加と経済成長はここから急加速し、世界経済の中で重要な役割を担っていくことは間違いありません。特にその中でもラストフロンティアと呼ばれるアフリカ大陸は、2050年には世界人口の25%を占める25億人の巨大市場になります。その成長を牽引する最先端のデジタル技術を活用し、既存の枠組みに捉われることなく産業・社会基盤を一から構築していく新興国には、 日本が学ぶべきイノベーションの発想が多く存在します。UNCOVERED FUNDは、まだ十分な起業家支援が行き届いていない『アンカバード(un covered)』な世界で 未開の才能を発掘し、事業を作り、雇用を生み出し、世界100億人が共存する未来へ大きな価値を共創します。
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